軽貨物業界に新風を吹き込む「人との絆、笑顔の連鎖」の経営哲学|株式会社Trasaburou 嶽山新代表インタビュー

EC市場の拡大と物流クライシスが叫ばれる中、軽貨物業界は社会インフラとしての役割をますます強めています。
その最前線で独自の事業モデルを築き上げているのが、株式会社Trasaburouの代表取締役・嶽山新氏です。
業界の常識にとらわれず、ドライバーファーストの経営を貫く嶽山氏に、軽貨物業界への参入経緯から独自のリースモデル、そして業界全体への思いまで、じっくりと話を伺いました。
1. 自動車販売から軽貨物へ – 強みを活かした参入経緯
Q. まず、軽貨物業界に参入された経緯と前職についてお聞かせください。
嶽山氏:前職では中古車販売を手がけていました。当時、軽貨物事業が注目を集め始めており、通常であれば運送会社は車両を購入してから事業を始めるステップを踏む必要がありました。しかし、当社には「自社で車両を調達できる」という強みがありました。
そのような折、同業者から「軽貨物事業を始めてみてはどうか」とお声がけいただいたことが、参入の直接的なきっかけです。

Q. 一般貨物ではなく、軽貨物に特化された理由は何でしょうか?
嶽山氏:一般貨物は許可取得のハードルが高く、事業の性質が全く異なります。
その点、軽貨物は参入障壁が比較的低く、何より「自社で車両を用意できる」という私たちのアセットを最大限に活かせる分野だったことが大きな理由です。
2. 業界の常識を覆す「期間縛りなし・違約金なし」リースモデル
Q, 株式会社Trasaburouの大きな特徴である「期間縛りなし・違約金なし」のリースモデルは、どのようにして生まれたのでしょうか?
嶽山氏:軽貨物運送を始めた当初は、自社で調達した車両を安価に貸し出して事業を行っていました。
当時、車両手配はローンを組むのが主流でしたが、車両トラブルは少なくありませんでした。
そこで、弊社が車両を一括購入し、毎月定額で貸し出す「軽貨物レンタル」という別事業を立ち上げました。
それが、この「縛りなし・違約金なし」モデルの誕生です。

Q. 月額料金の内訳はどうなっているのでしょうか?
嶽山氏:基本的には月額定額で3万円、新車の場合は3万4,000円程度に設定しています。この料金には自賠責保険や重量税も含まれており、ドライバーは稼いだ売上からリース料を差し引いて収入を得る仕組みです。
さらに、当社は自社工場を保有しているため、事故や故障時の保険対応はもちろん、営業用である「黒ナンバー」の代車を迅速に手配できる体制を整えています。これがドライバーにとっての大きな安心感につながり、当社の強力な競争優位性となっています。

3. 2億円の借入と500台の大勝負- 創業期の試練
Q.このモデルを始める際、失敗などはありましたか?
嶽山氏:はい、多くの試練がありました。当時はローン審査に通らず、支払いが滞るケースも少なくありませんでした。また、事業開始時に思い切って500台の車両を一括購入するという大勝負に出ました。
独立して3期目、およそ10年前のことです。当時の年商は約2億円でしたが、1台40万円として総額2億円の融資を銀行から借りました。
「これからは必ず軽貨物の時代が来る」と必死に説得した結果です。
しかし、当然ながら500台が一気に稼働するわけもなく、一時は深刻なキャッシュフローの悪化に直面しました。そこから這い上がってきたからこそ、現在の盤石な基盤があると考えています。

4.ドライバーとの対等な関係を実現する経営理念
Q. ドライバーの収入モデルや、リース審査の基準について教えてください。
嶽山氏:働き方によって収入は様々で、月に100万円稼ぐ方もいれば、週4日稼働で30万円程度の方もいます。稼働率が高まるほどランニングコストの割合が下がり、手取りが増えるビジネスモデルです。
審査については、当社はリース会社としての立ち位置でもあるため、厳格な与信審査は行っていません。売上確保の観点から「どの現場でどの程度の売上が見込めるか」の確認を重視しており、保証人も緊急時の連絡先として立てていただく程度です。
Q. ドライバーとの対等な関係を、具体的にどう実現していますか?
嶽山氏:常に「私たちは偉くない」というメッセージを社内に発信し続けています。管理部門がシフトを組んでいるからといって、ドライバーより偉いと勘違いしてはなりません。
一方で、ドライバー側にも「配ってやっている」という態度は慎むよう求めています。お互いがプロフェッショナルとして対等な立場で役割を果たすという価値観を、全体朝礼などの場で共有し、各拠点にも掲示しています。

Q. 経営理念について詳しく教えてください。
嶽山氏: 当社の経営理念は「関わったすべての人を笑顔に楽しく元気にできる人である」です。判断基準は常に「相手が喜ぶか、笑顔になるか」に置いています。
この原点は、東日本大震災のボランティア活動にあります。被災地へ支援に向かった私たちが、逆に被災者の方々から笑顔と活力をいただく経験をし、仕事においても「笑顔」や「楽しさ」が不可欠だと痛感しました。

前職で理念のない経営に疑問を感じていたこともあり、創業時からこの理念を揺るがず貫いています。
5.ドライバーの定着率と人材育成の課題
Q. ドライバーの定着率や離職について教えてください。
嶽山氏: 当社の場合、入社と退社が同数程度で推移しています。解約理由の半数を占めるのは、荷主様からのクレームです。
クレームによる減点方式を採用しており、一定の基準を超えると契約解除となります。荷主様への影響を考慮すると、厳格に対応せざるを得ません。
Q. 人材育成プログラムについてはいかがですか?
嶽山氏: 業務に慣れてきた段階でのコンプライアンス意識の低下が課題です。最初は丁寧な仕事をしていても、歩合を上げるために「短い時間で多く配りたい」という意識が働き、時間外配達などのルール違反につながるケースが出てきます。
金銭面でのインセンティブだけでなく、プロとしての意識やモラルをどう育成していくか、現在も試行錯誤を続けています。
6. M&A戦略と全国展開への道
Q. 株式会社Side Expressや自動車部品メーカーNextaleの買収など、M&A戦略の狙いをお聞かせください。
嶽山氏: Side Expressの買収は、当社が未進出だった埼玉県へのエリア拡大と、新規の荷主開拓が目的でした。事業承継のニーズとも合致し、スムーズなM&Aとなりました。

一方、自動車部品メーカーのNextaleの買収は、自社で車両調達できるという当社の強みをさらに進化させる戦略です。
オイルやブレーキ関連部品、タイヤなどの消耗品を自社グループ内で安価に調達・供給できれば、ドライバーの負担軽減と当社の利益向上につながり、関わる全員がハッピーになるのではないかと考えました。
7. 2024年問題が軽貨物業界に与えた影響
Q. 2024年問題は、軽貨物業界にどのような影響を与えましたか?
嶽山氏:一般貨物の残業規制により、運べなくなった荷物が、時間規制の対象外である軽貨物に流れてくるという動きがありました。

しかし、一般貨物の会社とタッグを組んでいる現場では、一般貨物側の人件費高騰のしわ寄せとして、軽貨物の運賃引き下げ圧力がかかるケースもあり、プラスとマイナスの両面の影響が生じています。
Q.業界の健全な発展に向けた「適正運賃」については、どのようにお考えですか?
嶽山氏:大手ECサイトが謳う「送料無料」のシワ寄せは、確実に物流現場に及んでいます。適正な物流網を維持するためにも、商品代金と送料は明確に分けるべきだと考えています。
私が理事を務める軽貨物ロジスティクス協会で消費者1,000名以上を対象に調査を行ったところ、多くの方が「再配達の有料化」を容認していることが分かりました。

消費者の実態に合わせた柔軟な配送指定や「置き配」の普及が進めば、過度な運賃引き下げ圧力は緩和され、ドライバーの負担も大幅に軽減されるはずです。
8. EV時代への備えと、失敗から学んだ「攻め」の姿勢
Q. EV(電気自動車)専用のレンタルサイト「EVeeeen」を立ち上げられましたが、業界のEV化についてどう見ていますか?
嶽山氏:「EVeeeen」というEVだけのレンタルサイトをオープンしました。
しかし、現在のEVは航続距離が150km〜200km程度と、1日の配達業務をギリギリこなせるかどうかという水準であり、ドライバーに不安を強いてしまうため、実用的な普及はまだ少し先だと感じています。
Q. これまでの失敗から得た教訓と、それをどう経営に活かしているか教えてください。
嶽山氏:創業期の資金繰り悪化や、昨年買収した関西の企業の倒産による4,000万円の損失など、数多くの失敗を経験してきました。そこから学んだのは、「現状維持は衰退である」ということです。周囲の環境は常に変化しており、失敗を恐れずに攻め続けなければ企業は生き残れません。
また、人を疑ってかかるよりも、信じる経営を心がけています。失敗しても「それ以上に取り返してやる」という強い反骨精神が、当社をここまで成長させてきた原動力だと思っています。

9. 今後の展望と求めるパートナーシップ
Q. 最後に、今後の展望や求めているパートナー企業についてお聞かせください。
嶽山氏:当社と同様のリースモデルを展開する競合は増加していますが、当社には「自社整備工場」と「黒ナンバー代車の保有」による迅速なトラブル対応という強みがあります。
今後は、自社配送のコスト(ガソリン代や人件費)高騰に悩み、配送業務のアウトソーシングを検討している企業様と積極的に提携を進めたいと考えています。

また、組織課題でもある人材採用の面では、求人サイトからの応募や面接予約の調整などを効率化できるツールがあれば、ぜひ導入したいと考えています。
まとめ |「笑顔の連鎖」が描く軽貨物業界の未来
嶽山氏が掲げる「関わったすべての人を笑顔に楽しく元気にできる人である」という経営理念は、単なるスローガンではなく、創業時から一貫して貫かれてきた確固たる信念です。

ドライバーとの対等な関係構築や適正運賃の追求は、軽貨物業界における新しい経営のあり方を示しています。
数々の失敗を乗り越え、「現状維持は衰退」という信念のもと、M&Aや新規事業など多角的な展開を進めるTrasaburou。
物流クライシスが深刻化する今だからこそ、技術やシステムだけでなく「人」を中心とした同社の経営哲学が、業界全体の希望となるのではないでしょうか。

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