オフィスを治療院に変える起業家・高山耕輔が描く、健康経営の新たなROI

「従業員の肩こりや腰痛は、個人の問題である」

そう切り捨ててしまう経営者は、いま目の前にある巨大な損失を見過ごしているかもしれない。

厚生労働省の推計によれば、頚部痛・肩こりによる労働損失額は約3.1兆円、腰痛によるそれは約3兆円に上ると試算されている。心身の不調を抱えたまま働くことによる生産性低下は、オフィスの至る所に静かに、しかし確実に蔓延している経営リスクだ。

「身体の不調は、感じた瞬間に対処できる環境がなければ、後回しにされ続ける。だからこそ、我々がオフィスへ行くのです」

そう語るのは、株式会社EightLab(エイトラボ)代表取締役・高山耕輔氏だ。

彼は単なる「出張マッサージ」の枠を超え、国家資格を持つセラピストを企業へ送り込み、従業員の身体データを資産化するプラットフォーム「Carefor(ケアフォー)」を展開している。

柔道整復師として現場の矛盾と対峙し、コロナ禍という未曾有の危機を乗り越え、製造業やIT企業の生産性を劇的に改善させてきた高山氏。

なぜ今、多くの企業が彼のサービスを「福利厚生」ではなく「投資」として導入するのか。

その背景にある、医療費削減と生産性向上を両立させる緻密な戦略と、彼が目指す「健康がインフラになる社会」の全貌に迫る。

待つ医療の限界とオフィス施術への挑戦

高山氏のキャリアの原点は、意外にも「挫折」と「義憤」から始まっている。柔道整復師として整骨院業界に入り、15年。院長やマネージャーとして5店舗の立ち上げを経験する中で、彼は業界が抱える二つの矛盾に直面していた。

一つは、対処の遅れだ。 

「整骨院に来る人は、症状が限界まで悪化してから初めて扉を開きます。慢性的な肩こりがヘルニアになり、腰痛が深刻化してからようやく来る。待っているだけでは来てもらえない、しかし来てもらえないから悪化する。この悪循環を断ち切りたいとずっと考えていました」

もう一つは、業界の不透明さである。 インタビューの中で高山氏は、整骨院業界の一部にはびこる保険請求のグレーゾーンについて触れている。

「保険適用ではない施術に無理やり保険請求をかけるような慣習が一部にあり、これを毎日繰り返すことに限界を感じていた」

と語る。正当な対価で、正当な技術を提供する。その当たり前のビジネスモデルを確立するために、彼は安定した地位を捨てて上京し、起業の道を選んだ。

当初は個人宅への出張マッサージからスタートしたが、そこで気づいたのは企業という場の可能性だった。一般家庭への訪問とはリーチできる人数が桁違いであり、何より仕事の合間に受けられるという環境が、多忙なビジネスパーソンの心理的ハードルを劇的に下げることを肌で実感したのだ。

こうして2019年12月、株式会社EightLabを設立。企業のオフィスを「治療の場」に変える挑戦が始まった。

企業リスクを完全排除する国家資格へのこだわり

企業が外部の人間をオフィスに入れ、従業員の体に触れるサービスを導入する際、経営者や人事担当者が最も懸念するのは「安全性」と「責任」である。万が一、施術による事故が起きれば、それは企業の安全配慮義務違反にも問われかねない。

ここでEightLabが競合他社と一線を画すのが、国家資格保有者(柔道整復師・鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・理学療法士)のみを派遣するという徹底した品質管理だ。

「企業がオフィスにセラピストを招き入れるには、信頼性の担保が絶対に必要です。無資格者が施術を行い事故が起きれば、企業のリスクになる。私自身が有資格者だからこそ、ここは一切妥協しませんでした」

と高山氏は断言する。

さらに、単に資格を持っているだけでなく、EightLab独自の研修制度と評価システムによって技術力や接客力をスコア化。

東京メディカル・スポーツ専門学校との提携により、学生段階からキャリアパスを育成するなど、人材の質を組織的に担保している。

これは、「安かろう悪かろう」のリラクゼーションサービスとは明確に異なる、企業向けに設計された「プロフェッショナル・サービス」なのである。

コロナ禍の危機で見出した製造現場という鉱脈 

順風満帆に見えたスタートからわずか4ヶ月後、コロナ禍が世界を襲った。オフィスへの訪問は不可能となり、サービスは一時、全面的にストップした。解約や休止が相次ぐ中、高山氏は冷静に市場を見つめ直した。

「ニーズは消えていない。むしろ、テレワークによる環境変化で肩こりや腰痛が悪化し、ニーズは増大しているはずだ」

彼は即座にYouTubeでのセルフケア動画配信へシフトしつつ、新たなターゲットを見出した。それは、リモートワークができない「現場」を持つ企業、製造業や工場勤務者である。

「製造業で働く方は、肉体労働による身体の不調を抱えているケースが非常に多い。我々が入ることで明らかに身体の調子が良くなり、生産性のデータも向上した」

と高山氏は語る。

実際、ある製造業の現場では、休憩時間に空きスペースを活用して施術を行うことで、作業効率の改善が数値として表れたという。この経験は、Careforが単なるマッサージ屋ではなく、「生産性向上ソリューション」であることを証明する機会となった。

現在では、JT(日本たばこ産業)やDMM.comといった大手企業に加え、地方自治体や工場拠点など、ホワイトカラーからブルーカラーまで幅広い層に導入が進んでいる。

福利厚生をコストから投資へ変えるデータ活用

高山氏が経営者に対して強調するのは、Careforが提供するのは「気持ちよさ」だけではない、という点だ。

「ただ揉んで良かったね、で終わらせない。従業員の身体の変化や行動変容をデータ化し、企業にフィードバックする。そこが既存の出張マッサージとの決定的な違いです」

施術後のアンケートでは、99%以上がポジティブな身体の変化を実感しているという結果が出ているが、EightLabの構想はさらにその先にある。蓄積された健康データを分析し、企業の健康課題を可視化することだ。

実際、健康保険組合と連携した導入事例では、EightLabの介入により医療費(療養費)が約20%削減されたというデータも出ている。

「医療費は年々増え続けているが、人は身体が悪くなって初めて医療機関に行く。我々のサービスが入り口となり、悪くなる前の段階でケアすることで、確実に医療費削減に貢献できる」

これは、健康経営優良法人認定を目指す企業にとっても強力な武器となる。身体のケアはメンタルヘルスにも直結し、うつ病予防や離職率低下にも貢献するからだ。

福利厚生費として計上されるコストは、医療費削減と生産性向上というリターンを生む「投資」へと変わる。

埋もれた技術者を救うセラピストのキャリア支援

本サービスには、もう一つ重要な側面がある。それは、飽和するセラピスト業界の救済だ。 

国家資格を持つセラピストは年々増えているが、保険収入の減少や過当競争により、資格を持ちながらも低賃金に甘んじている技術者は多い。

「技術はあるが、集客できない。開業リスクも取れない。そうしたセラピストに、企業内施術という新しいキャリアパスを提示したい」

と高山氏は語る。

Careforは、店舗を持たないため固定費がかからない。その分、セラピストへの還元率を高めることができる。

企業という安定した需要と、埋もれていた優秀な技術者をマッチングさせるこのモデルは、労働者不足が叫ばれる日本において、新たな「働き方改革」のモデルケースとも言える。

「治療家の人たちは、保険請求が正義だと思っている人が多い。だから保険に頼らない僕のやり方を『もったいない』と批判する先輩もいました」

しかし、旧態依然とした業界の慣習に背を向け、市場原理に基づいた健全なビジネスモデルを構築した高山氏の先見性は、いま多くの若手セラピストから支持を集めている。

2029年に向けた健康インフラ構築のロードマップ

高山氏の視線は、未来を見据えている。2025年5月にはファンドからの資金調達を実施。2029年までには累計契約拠点数を約4,800拠点まで拡大し、IPOも視野に入れている。

今後は、ボディケアで得られた接点を入り口に、簡易血液検査や健康eコマース、さらには医療機関と連携したデータプラットフォームへと進化させていく構想だ。

「本社にある立派な福利厚生を、地方の支社や工場の皆さんも同じように受けられる社会にしたい。働く場所によって、健康サービスへのアクセスに格差があってはならない」

高山氏の言葉は、企業経営における「公平性(Equity)」の本質を突いている。経営者にとって、従業員の健康は守るべき資産であり、同時に最大のリスクファクターでもある。

オフィスの片隅、会議室の一角から始まる「Carefor」の革命は、日本の労働生産性と医療費問題に対する、極めて現実的で効力の高い処方箋となるだろう。

「痛み」を我慢して働くことが美徳とされた時代は終わった。次は、御社のオフィスを「治す場所」「防ぐ場所」に変える番ではないだろうか。EightLabとの対話は、その第一歩となるはずだ。

ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございました。

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