「貧困ゼロ」を本気で目指す経営者 – pluszero取締役副社長・永田基樹氏が描く、AIと人が協働する未来

東大発AI企業pluszero 永田基樹氏が描く、社会構造変革への道筋
「AIは便利になる。でも、人間は”考えること”をやめてはいけない。」
穏やかな口調の奥に、揺るぎない信念がある。論理の人に見えて、実は”感性”を深く信じている経営者。それが、株式会社pluszeroの取締役副社長・永田基樹氏だ。
彼が目指しているのは、単なるAI開発ではない。「生活コストがゼロに近づく社会」すなわち、貧困という概念そのものが消える未来である。
2022年10月に東証グロース市場へ上場を果たしたpluszeroは、独自AI技術「AEI(Artificial Elastic Intelligence)」を武器に、この壮大なビジョンの実現に向けて着実に歩を進めている。
【思考の原点】数学と議論の中で育った社会的視点

永田氏の思考の土台は、幼少期の環境に遡る。大阪生まれ、大阪育ち。父は大学教員(数学)、母は中高の数学教諭という家庭で育った彼は、常に数式とニュース番組、そして議論に囲まれていた。
「立体図形を作るおもちゃが家に色々とありました。後から聞くと、母が買ってくれていたようです。ものごとを構造化したり、立体的に考えたりするのが好きになった原点だと思います」と永田氏は振り返る。また「父とは政治や経済の話をよくしていました」とのこと。数字の裏にある社会構造、論理の先にある人間の営み。幼少期から、彼の視点は”個”ではなく”社会”へ向いていた。
興味深いのは、彼が高校時代に合唱部に所属していたことだ。理性と感性。この二面性こそが、後のAI技術思想の原型となる。
高校時代には脳科学者・茂木健一郎氏の影響を受け、「脳の仕組みはどうなっているのか」に強い興味を持った。この問いが彼を東京大学工学部へ導き、東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻の博士課程へと進む。博士(情報理工学)の学位を取得した彼の専門は、電力系統や金融システムの安定性解析という極めて高度な数理的研究だった。
独自の技術思想「右脳と左脳」を融合したAI
大学2年、19歳の時、永田氏は現在のpluszeroへとつながる組織でアルバイトを開始する。pluszero代表の小代義行氏(代表取締役会長兼CEO)、森遼太氏(代表取締役社長兼COO)との出会いは、このアルバイト先だった。
「気づけば、人生の半分を同じ仲間と過ごしていました」と永田氏は語る。2018年7月、彼らはpluszeroを設立し、AI受託開発事業を開始した。創業時から「数理モデルによる課題解決を仕事にしたら面白いのではないか」という共通の思いが、現在のpluszeroの基盤となっている。
pluszeroでは、受託開発と並行して研究開発を行ってきた。掲げたテーマは明確だった。現在の生成AIは、人間で言えば”右脳型”。直感的だが、時に間違う。pluszeroではそこに、”左脳”を組み合わせるのだ。
右脳=パターン認識・直感
左脳=論理・検証・整合性チェック
この融合により、「間違いが許されない現場でも使えるAI」を実現する。証券会社の問い合わせ、コールセンター対応、”それっぽい回答”ではなく、”正しい回答”を出すAI。ここにpluszeroの独自性がある。

技術を具現化するAEI
pluszeroが開発を進めているのが、「AEI(Artificial Elastic Intelligence)」と呼ばれる独自のAI技術だ。AEIは「特定の限られた業務の範囲において、人間のようにタスクを遂行できるAI」を指すpluszero独自の概念である。
なぜAEIが必要なのか
ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)は確かに高い回答精度を持つが、回答の信頼性が問題視されており、ビジネスの現場で使うには不安が残る。pluszeroは、汎用人工知能を目指すのではなく、「特定条件に絞ることで実用的な水準での業務遂行を可能にする」という現実的なアプローチを選択した。
AEIは、ChatGPTのような大規模言語モデルの信頼性を高めることができるという特徴を持ち、「信頼されるAI」「責任のあるAI」を具現化したものと位置づけられている。
コールセンターのAIオペレーター「miraio」
pluszeroが中心となって開発してきたAEI技術の一つに、コールセンターのオペレーターをAI化するサービスがある。それが「miraio(ミライオ)」だ。miraioは、アップセルテクノロジィーズ株式会社との資本業務提携により誕生した、日本で開発された「意味を理解して行動できるAI」である。
miraioの最大の特徴は、「深層学習(即応するAI)」と「記号推論(熟考するAI)」という2タイプの知能のメカニズムを融合した点にある。従来のAIは、どちらか一方に偏っていた。深層学習ベースのAIは瞬時に反応できるが、論理的思考や推論が苦手だ。一方、記号推論ベースのAIは論理的だが、柔軟性に欠ける。
miraioは、これら両方の長所を組み合わせることで、「リアルタイムかつ柔軟な会話が可能」でありながら「物事の本質を理解し、提案できる」AIを実現した。これこそが、pluszeroが長年研究してきたAEI技術の成果である。
miraioは24時間365日稼働し、想定外の会話にも柔軟に対応できる和製AIオペレーターとして、東証プライム上場企業3社を含む、複数の企業に選ばれている。特に飲食業界ではホリイフードサービスとアップセルテクノロジィーズ、pluszeroの3社が連携し、飲食店向けAIオペレーターの共同開発を進めている。

知識の言語化
“左脳”の仕組みを駆使するには、知識を言語化する仕組みが大切である。永田氏は、「AIに処理を丸投げするのではなく、現場の複雑な知識を人間とAIが連携して言語化していく営みが大切です」と説く。この言語化の仕組みを様々な分野に広げていこうとしている。
この「知識の言語化」の適用範囲は、コールセンターなどのオフィス業務に留まらない。pluszeroが見据えているのは、農業、建設、エネルギーといった物理的な実作業を伴う領域への展開だ。熟練者が持つ”匠の技”や現場の判断ロジックを言語化し、それをロボット等のハードウェアに実装する。
いわばロボットの頭脳としてAEIを活用することで、物理世界の作業においても、人間並みの柔軟さと機械の正確性を両立させる。この技術の拡張こそが、彼が描く社会変革の鍵となる。
文理融合のチームづくり
pluszeroが特に重視しているのが、多様な専門性を持つ人材の採用だ。pluszeroには「数字も言語にも強い知のジェネラリスト」と「特定の研究分野やプログラミング言語に強い知のスペシャリスト」の両方が在籍しており、文理横断で様々な分野に点在している知見を持ち寄る体制を構築している。
pluszeroは、人員の83%が技術職という極めて技術重視の組織となっている。現在、AIに関する最先端の知見は色々な機関、研究室に散らばっている状況にあり、一人の技術者が技術領域を網羅的にカバーすることは難しくなっている。だからこそ多様な人材がお互いの知見を持ち寄りながら交流できる環境づくりが競争力の源泉だと考えている。
「貧困という言葉が不要な社会」を目指して
永田氏のビジョンは、AIの枠をはるかに超える。「最終的に、世の中の必需品がタダで作れる社会を目指しています」。ベーシックインカムは有効かもしれないが、それだけでは不十分。分配だけで解決するのではなく、生産構造の変革も含めて考えるべきという考えだ。
「言語化された知識」を実装したAIとロボットが、食料、エネルギーなどの必需品を自律的に生産する。労働集約的だった産業が知識集約型へと進化し、技術がコモディティ化することで、生産コストは限りなくゼロへ近づく。 その先にあるのは、「貧困という言葉が不要な社会」だ。
pluszeroのビジョンは「人の可能性を広げる」こと。AIを単なる自動化ツールとしてではなく、人間の能力を拡張し、新しい選択肢を生み出すパートナーとして位置づけている。
そして、そのような社会を実現するためには、右脳と左脳を融合する技術により、信頼されるAIが様々な分野で広がっていく必要があり、そのための一歩としてコールセンターや営業・製造業などの分野で社会実装を進めていくことが大事であると考えている。
テクノロジーと人間性の共存
「AIに丸投げする社会は危険です」と彼は言う。
AIは痛みを知らない。身体を持たない。実感がない。だからこそ、人間は知識を積み上げ続ける、議論する、感性を磨く、判断し続ける。この営みを手放してはいけない、と彼は話す。
そして、人間の知識の積み上げを活かし、発展するために、「右脳」と「左脳」を適切に組み合わせる仕組みが大切であると彼は考えている。
テクノロジーが進むほど、人間の”身体性”と”思考”の価値は増していく。永田氏は「ディープラーニングだけに頼らない」という独自路線を貫いている。これは決して主流技術を否定するものではなく、ディープラーニングの限界を認識した上で、それを補完する技術を開発することで、より実用的なAIを実現しようという戦略だ。
永田氏は「ディープラーニングや他の技術における課題を解決できうる汎用基盤であるAEIを中長期的スパンで開発している」と述べている。
経営者への示唆「技術と実装の架け橋」
永田基樹氏の人生を貫くのは一貫した構造だ。
数学的思考 → 脳科学 → AI → 社会構造 → 貧困解消
すべてが一本の線でつながっている。彼が開発しているのはAIだが、彼が設計しようとしているのは「未来の人類社会」だ。
pluszeroの経営方針は、短期的な成果に囚われず中長期的視点で取り組むこと、ディープラーニングだけに頼らず多様なアプローチを組み合わせること、文理融合の多様な人材を活かすことにある。
合唱を愛した少年は、いま、人類の未来の”ハーモニー”を設計している。論理と感性、右脳と左脳、AIと人間。その融合点に立ち、永田氏は静かに、しかし確実に世界の前提条件を書き換えようとしている。
AI技術の発展を追うだけでなく、それを現場で使える形に落とし込むpluszeroのアプローチは、多くの経営者にとって参考になるはずだ。技術と実装の架け橋となり、壮大なビジョンを着実に形にしていくことこそが、次世代の経営者に求められる姿勢なのかもしれない。

会社概要
- 会社名:株式会社pluszero
- 設立:2018年7月
- 代表者:小代義行 / 森遼太
- 取締役副社長:永田基樹
- 上場:東京証券取引所グロース市場(証券コード:5132)
- 事業内容:AI・自然言語処理ソフトウェア・ハードウェア等の各種テクノロジーを統合的に活用したソリューション提供
- 公式サイト:https://plus-zero.co.jp/
- miraio公式サイト:https://put-ai.com/miraio/
- 商談シミュレータ公式サイト:https://brain-plus.jp/

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