ポスティング業界No.1・株式会社アトの戦略家、飯田佳弘が描くアナログ×デジタルの勝算

デジタルマーケティングが飽和し、CPA(顧客獲得単価)の高騰に頭を抱える経営者は少なくない。Web広告は「見られる」ことを前提としているが、スクロールされる画面の中で情報は一瞬で消費されていく。
一方で、新聞の購読率低下により、かつて最強のエリアマーケティング媒体であった「折込チラシ」のリーチ力は失われつつある。情報を確実に、物理的に届ける手段が消えかけている今、皮肉にも最もアナログで、最も「泥臭い」とされる手法が再評価されている。
ポスティングだ。
この旧態依然とした業界において、テクノロジーを駆使した管理のDXと、徹底したデータドリブンな戦略を持ち込み、売上・拠点数・取扱高で業界No.1の座を確立した企業が株式会社アトだ。
同社の急成長を戦略面で牽引するのが、取締役CSO(最高戦略責任者)の飯田佳弘氏である。
「チラシを配るだけの仕事」という業界の常識を覆し、ポスティングを「選ばれるマーケティング・ソリューション」へと昇華させた飯田氏の経営哲学と、同社が推進する「AX(アナログ・トランスフォーメーション)」の真髄に迫る。
キャリアの原点:なぜ「紙」に勝機を見出したのか

飯田氏のマーケティング思考の原点は、新卒で入社した東証一部上場の学習塾メガフランチャイジー企業での経験にある。
学習塾ビジネスは、半径数キロメートル圏内の家庭にいかにアプローチするかという、極めて局地的な「エリアマーケティング」の戦場だ。
飯田氏は当時、生徒募集のためにテレビCM、Web広告、新聞折込、ポスティングと、あらゆる媒体を比較検証する立場にあった。
デジタル全盛前夜に見えた「物理的接触」の強さ
当時からWebマーケティングは台頭し始めていたが、飯田氏が現場で目の当たりにしたのは、「地域×紙媒体」が持つ圧倒的な費用対効果(ROI)だった。 新聞を取らない子育て世帯が増える中で、折込チラシは届かない。Web広告は競合に埋もれる。しかし、各家庭のポストへ直接投函されるポスティングは、「強制視認性」において他の追随を許さなかった。
「自分で配るのはしんどい。でも、反響が出るからやる」
自らチラシを配り、その手応えを肌で感じた飯田氏は、この「ラストワンマイル」の領域に特化することにビジネスの勝機を見出す。そして2010年頃、当時はまだ業界の後発企業であり、ベンチャーの気風が色濃かった株式会社アトへ飛び込んだ。
業界の「不信」を「信頼」へ変えるテクノロジー戦略

入社後、支社運営や営業マネージャーとして現場を奔走した飯田氏が直面したのは、ポスティング業界につきまとう根深い「不信」だった。
「本当に配っているのか?」「山に捨てられているのではないか?」
配布スタッフが一人で街を回るポスティングは、そのプロセスがブラックボックスになりがちだ。クライアントからの疑念を払拭できない限り、この業界がメジャーな広告媒体になることはない。
そこでアトが断行したのが、徹底的な「透明化」である。飯田氏はこれを「アナログ・トランスフォーメーション(AX)」の中核に据えた。
「3秒に1回」のログが証明する品質
アトでは、全配布スタッフに自社開発のGPSアプリを搭載したスマートフォンを携帯させている。このシステムは、スタッフの現在地情報を3秒に1回という高頻度で記録し、管理者がリアルタイムで動きを把握できる仕組みだ。
これは単なる監視ツールではない。 「このマンションは投函禁止」といった情報が地図上でアラートとして表示され、誤配布によるクレームを未然に防ぐ。また、スタッフが効率的に回れるルートを可視化することで、生産性の向上にも寄与している。
「DXなどしっかりした管理体制のわりに安い」 飯田氏が語るように、中間マージンを排した自社雇用スタッフと、テクノロジーによる効率化の掛け合わせこそが、アトがナショナルクライアントから選ばれる最大の理由となっている。
データドリブンな「商圏攻略」のメソッド

「提案を全くせずにただ配ってしまうことは、お客様を不幸にする」 飯田氏は、ポスティングを単なる労働集約型の代行業務から、コンサルティング・セールスへと転換させた。
その武器となるのが、3万社以上の取引実績から蓄積された膨大な反響データとGIS(地理情報システム)の融合だ。
「勘」と「経験」をデータで裏付ける
例えば、高価格帯の分譲マンションを売りたい不動産会社に対し、アトは単に近隣に配るだけの提案はしない。 GISデータを駆使し、年収、家族構成、住宅の築年数などを町丁目単位でセグメント。
「年収1,000万円以上の世帯が多いエリア」「築15年以上の持ち家が多いエリア」などをヒートマップで可視化し、無駄打ちを極限まで減らす提案を行う。
さらに近年では、チラシにQRコードを掲載し、そこからのアクセス数や滞在時間を計測することで、Web広告と同様にLTV(顧客生涯価値)までを追跡する取り組みも進めている。
「アナログだからこそ、デジタル以上に数値をシビアに見る」
この姿勢が、通販、不動産、フィットネス、さらにはスマホゲームのアプリといったWeb発の企業まで、幅広い業種のクライアントを惹きつけている。
組織論:ラストワンマイルを支える「人間中心主義」

テクノロジーやデータがいかに進化しようとも、最後のラストワンマイルを担うのは「人の足」だ。飯田氏の経営におけるもう一つの柱は、徹底した「人間中心主義」にある。
100万円プレイヤーを生む「パートナー」制度
アトでは、配布スタッフを「パートナー」と呼ぶ。これは単なる呼称の変更ではない。 飯田氏は「社員が輝ける場所をつくることが役目」と公言し、多様なバックグラウンドを持つ人々が活躍できるプラットフォーム作りを推進している。
その象徴が、自社構築した「翌日払いシステム」だ。パートナーが働いた報酬の80%までを、最短で翌日に振り込める仕組みを整えたことで、ギグワーカーのニーズに応え、現在では全国で約2万人以上の登録スタッフを抱えるに至っている。
中には月収100万円を稼ぐプレイヤーや、15年以上在籍し「この仕事で娘を大学に行かせた」というベテランも存在する。土地勘のあるベテランスタッフが蓄積した「現場の暗黙知」は、AIでも代替できないアトの競争優位性となっている。
異業種連携による価値創造
「組織力」への注力は、社外とのパートナーシップにも表れている。JFL所属のサッカークラブ「Criacao Shinjuku(クリアソン新宿)」との提携はその好例だ。
飯田氏は自らクリアソンの集客戦略を担当し、スタジアム周辺の戸建て層へのアプローチなどを指揮している。同時に、クリアソンのパートナー企業コミュニティを通じて新たなBtoB案件を獲得するなど、「尋常じゃないくらい仕事になっている」と語るほどの実利を生み出している。
地域密着型のスポーツと、地域密着型のポスティング。
このシナジーを経営戦略として機能させている点は、飯田氏の非凡なバランス感覚を示している。
未来展望:ポスティングを「一つのメディア」へ

飯田氏が描く未来図は明確だ。「ポスティングを一つのメディアにする」。 デジタル広告が飽和し、プライバシー規制で追跡が難しくなる中、物理的に情報を届ける「紙」の価値は相対的に高まっている。
情報を「ギフト」に変える
その具現化の一つが、富裕層向けサービス「yoff(ヨフ)」や、情報をギフトとして届ける「@LETTER(アットレター)」だ。 特に「@LETTER」は、単なる広告ではなく、受け手が価値を感じるコンテンツや体験を、手紙のような丁寧なパッケージで届けるサービスである。
2025年の正月には三が日の配布を実現するなど、生活者の動線に合わせた新たな価値提供を模索している。
また、アトは全国60拠点のネットワークを活かし、物流や見守りなどを含む「地域社会のインフラ」としての機能拡張も見据えている。デジタルとアナログ、都市と地方をつなぐプラットフォームとして、その社会的影響力は増すばかりだ。
デジタル時代にこそ、「物理的接点」を制す
飯田佳弘氏と株式会社アトの軌跡は、一見すると成熟産業や斜陽産業と思われる領域であっても、「テクノロジーによる透明化」と「人を中心とした組織マネジメント」を掛け合わせることで、圧倒的な成長が可能であることを証明している。
- Web広告のCPAが高騰している
- 地域密着の集客に限界を感じている
- 組織の生産性と従業員エンゲージメントをどう両立させるか
もし貴社がこのような課題を抱えているならば、飯田氏のアプローチは多くの示唆を与えてくれるはずだ。 デジタル一辺倒の時代だからこそ、あえて「泥臭い現場」に最先端のメスを入れる。そこには、まだ誰も手をつけていないブルーオーシャンが広がっているかもしれない。

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