「社長が一人で悩まないように」 – 村井庸介が語る、社外番頭という生き方

「社長の専門は何ですか?」と聞かれたら、多くの経営者は即答できるでしょう。

では、「社長が一番苦手な仕事は?」という問いにはどう答えるか。人事制度の整備、DX推進、新規事業の立ち上げ。やるべきだとわかっていても、手が回らない領域は山ほどあるはずです。

村井庸介氏は、そうした経営者の「手が届かない仕事」を引き受ける「社外番頭」として活動している人物です。

慶應義塾大学を卒業後、野村総合研究所(NRI)で経営コンサルティングに従事。その後リクルート、グリー、日本IBM、メガネスーパーなど名だたる企業を渡り歩いたキャリアは、10年間で7回の転職という異色の軌跡を描いてきました。

「村井さんって結局、専門は何?」と真顔で聞かれることがあるという。人事もDXもマーケティングもやるから混乱するのは無理もない。しかし本人いわく、専門は一つだけ。「社長が一人で悩まないようにすること」。この言葉は単なるキャッチコピーではなく、実態を伴っている。

経営者の孤独に寄り添い、組織の成長を実現する。「社外番頭」として独自のキャリアを築く村井庸介氏に、その仕事の流儀と、10年間で7回の転職を経て辿り着いた働き方の哲学を聞いた。

マーケティングから人事、財務まで – 専門は「社長が一人で悩まないこと」

「番頭として活動することになったきっかけは何だったのか」という問いに、村井氏はこう答える。

「中小企業の社長さんからしてみると、マーケに強い人、営業に強い人っていうのを全部一個一個専門家で抱えるほど、体力的にもなかなか厳しいところがあります。僕は幸いにいろんな会社で仕事を経験してきましたし、部門横断型のプロジェクトも大企業でずっとやってきたので、いろんな専門領域を踏まえた上で、じゃあ経営として何すべきなのか、どこから優先順位つけてやるべきなのかっていうところには、比較的ニーズがあるんじゃないかと思ったんです」

村井氏が提供するのは、一般的に言えば「社長の右腕」「ナンバー2」の立ち位置で企業の成長を助けるサービスだ。しかし、「村井さんって結局、専門は何?」と真顔で聞かれることもあるという。人事もDXもマーケティングもやるから混乱するのは無理もない。しかし本人いわく、専門は一つだけ。

「社長が一人で悩まないようにすることです」

この言葉は単なるキャッチコピーではない。一般的なコンサルティングが「戦略を提案して終わり」になりがちなのに対し、村井氏のスタイルは明確に異なる。提案だけでなく実行まで伴走し、時にはクライアント企業の社内会議に入り込んで現場の空気を変えていく。

メガネスーパーとアウグスビール – 転機となった二つの経験

村井氏のキャリアにおいて、最も大きな転機となったのはメガネスーパー時代とアウグスビールでの経験だという。

「メガネスーパーにいた頃が、事業提携も含めて、自分のこれまで持ってきた経験を総合的に活かせた経験の一つでした。自分のこれまでの経験が資産になるんだって気づかせてくれた。でも、それが経営レベルで本当に力を発揮できるかなって体感できたのは、まさにアウグスビールの時でした」

アウグスビールでは新規事業の立ち上げ、累計8,000万円規模の資金調達、デジタルマーケティングの仕組み導入など、攻めと守りの両面で会社に必要なことを次々と実行。社長と二人三脚で事業を成長させた経験が、独立への決定的な一歩となった。

現在も同社の取締役を務める村井氏だが、報酬体系にも独自の工夫がある。

「月額固定は10万円にしていて、その代わり成果報酬をだいぶ手厚くしています。トータルでいくと年間で600万から1,000万くらいの間でアウグスビールからいただいている形です」

一般的な顧問契約では月額30万から50万円が相場だが、村井氏はあえて固定費を抑え、成果に応じた報酬設計を選んだ。その理由をこう語る。

「成果報酬モデルの方が、お互いやってて気持ちいいんです。月額いくらの顧問制にしちゃうと、成果出ても出なくてももらえちゃうし、逆にすごい成果出しても全然もらえない。成果報酬とセットの方が、僕的にはアドレナリン出る感じですね」

実際、アウグスビールでは年商が約1年半で2倍に成長。創業事業と同じくらいの売上規模を新規事業で生み出し、会社としての収益の柱をもう一本構築することに成功している。

年間600万円を費やして売上ゼロ – 失敗から学んだ「信頼の見極め方」

順風満帆に見える村井氏のキャリアだが、失敗も赤裸々に語ってくれた。

「アウグスビールで営業代行会社に年間600万円ぐらい払ったんですけど、売上0円でした。さすがにこれは社長にも謝りましたね」

Facebookから問い合わせがあり、共通の知り合いも多く、会社の執行役員という経歴もしっかりしていたため契約したものの、結果は惨敗。ほぼ同時期に、個人事業としてセミナー運営代行も別の会社に依頼したが、こちらも集客がうまくいかず失敗に終わった。

「ダブルパンチで同じ時期に同じような失敗をしたので、もう2度とやらないと決めました。人の紹介とか、直接僕の身の回りでやってる人がそれで実績出たっていうちゃんとファクトを取りに行かないと。特にお金のかかる投資だったので、もうちょっと小さく試せば良かったなっていうのが当時の反省です」

この失敗以降、村井氏の取引先はほぼすべて知り合いの紹介になっているという。経歴だけで判断せず、実績のファクトを確認する。当たり前のようでいて、多くのビジネスパーソンが見落としがちなポイントだ。

1年で会員数2倍、客単価1.5倍 – ブラジリアン柔術ジムの事例

村井氏の実力を示す事例は、大企業の再建や新規事業だけにとどまらない。北海道のブラジリアン柔術ジムでは、ウェブマーケティングとMEO(Map Engine Optimization)施策により、1年で会員数を2倍、客単価を1.5倍まで伸ばすことに成功している。

「店舗系は本当にウェブマーケティングで成果が出やすい。特に飲食みたいなマーケの激しい競合のところじゃなくて、ジム系とかはまだ全然やってなかったので、やっただけで他と圧倒的に差別化になって、速攻で競合を追い抜いた感じでした」

大企業の経営再建からローカルビジネスの集客まで、規模もジャンルもまったく異なる案件で結果を出せている。この汎用性の高さこそが、「社外番頭」としての村井氏の最大の強みだろう。

「正論」ではなく「現実論」を語る。選ばれる理由

顧客から選ばれる理由について尋ねると、村井氏はこう答えた。

「会議の途中とかでお客さんがよく言ってくれるのは、『村井さんって本当に現実論しかいい意味で語らないよね』って。正論じゃなくて、本当に今の会社として本当にどこまで動かせるのかとか。人事制度なんかも作ったりするので、社員のためとかそんな建前はいいので、社長として本当に誰を評価したいのかちゃんと教えてくださいみたいなことを言うんです。そういうことを高く評価いただくことが多いですね」

一方で、村井氏にもできないことはある。ソロで活動しているため、チームを組成して実務を全部アウトソース的に引き受けることは難しい。広告の運用代行なども人手の問題で対応できない。

「ただ、今いる社員も含めて誰がどう動かしたら、その施策が形になるのかっていうことをセットで提案したり、初期の形にするので、運用コストで見てみれば、代行で外に払うってなった瞬間、人件費とか外注費がとてつもなく上がりますけど、必要最小限の投資で成果を狙いに行くっていう意味では、逆に僕みたいな人を使った方がコスパのメリットはあるかなと」

ワンマン社長とは合わない – 断る基準

どんな顧客とは相性が合わないのか。村井氏の答えは明快だった。

「社長さんが『僕の言った通りやってください』みたいな、要は作業代行者を求めてるケースは、別に他のその作業をしっかりやってくれる人にお願いしたらいいんじゃないですかと。やっぱり社長と一緒に解決策も一緒に考えて、これで行きましょうって言って、一緒にチャレンジ・挑戦していく社長さんの方が性格は合いますね」

村井庸介氏が野村総合研究所時代に受け継いだ「GISOV」というフレームワークは、Goal(目的・目標)、Issue(課題)、Solution(解決策)、Operation(実行計画)、Value(付加価値)の5要素から成る。

このフレームワークを体系化した著書『どんな会社でも結果を出せる! 最強の「仕事の型」』は、転職を繰り返しながらも一貫して成果を出し続けてきた村井氏の思考法が凝縮されている。

長く継続してもらうために大切にしていることを尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「固定報酬を重く感じさせないっていうところは価格設定で気をつけています。あと、基本的にはこちらから新しいテーマを投げかけるんです。例えば、マーケティングの施策が当たって売れるようになってきたので、じゃあ次はちょっと組織体制整えましょうみたいな形で、次年度のテーマを必ず設定して、飽きが来ないようにっていうことは意識してやってますね」

コンサル業界の裏側 – 実績のない高額コンサルタントの増加

業界の裏側について、村井氏は率直な意見を語ってくれた。

「今、コンサル向けの講座がどんどん増え始めて、とにかく単価上げましょうみたいな指導が増えちゃってるんです。稼働時間少なくて単価だけ高くて、最初のプレゼンはうまいんだけど結局も形にもなってないみたいなケースがすごい増えてきたなって。蓋開けてみたら、本人がそんなにコンサル経験なかったみたいなのもあったりとか。本当に実績ベースで何をどこまでやったのかって、ちゃんと仕事をお願いする前に、特にコンサル系の人相手には確認した方がいいと思います」

さらに、SNSでの見せ方と実力の乖離についても警鐘を鳴らす。

「Xとかでフォロワー数が多くてちょっと目立ってる人が、本当にじゃあすごいコンサル力あってやれるかっていうと、結構微妙だったりするんですよね」

ビジネスで最も大切にしている価値観

村井氏がビジネスで最も大切にしている価値観を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「一言で言うと、お客さんの先のお客さん、要はサービスの受け手のお客さんも喜んでくれて、で、僕と直接対面でやる社長さんも含めてしっかり楽しんでやれるか。消費者も、クライアントも僕も、みんなハッピーでちゃんといられる状態っていうことがちゃんとイメージできた仕事を常にやりたいなと思っています」

この価値観は、仕事選びの判断基準にも直結している。

「このお客さんを伸ばしたことで消費者が喜ぶか、社会がどういう風に喜ぶのかっていうことを常に判断軸に置きながら、仕事選びもさせてもらってます」

仕事を通じて実現したい未来について、村井氏は「社会の心が豊かになる」という表現を使った。

「例えば、今までよりもより良いサービスがこう世の中に登場して、かつそれが広まったってなると、それを体験した人たちってなんか今までよりもちょっと生活の満足度が上がったりだとか、その瞬間の楽しさが増えたりってことで、感情的にプラスのものが生まれる。それが総論としてこう増えていくっていうことが、社会の心が豊かになっていくっていうことの一つの考え方かなと思っています」

AI時代における「番頭的な働き方」の価値

今後、コンサル業界はどう変わっていくのか。村井氏の見解は明確だった。

「もう圧倒的にアナログ的な体験を持ってる会社が、どんどん強くなる。実際に現場を動かしたとか、実際に営業を自分でやったとか、その実践値がないと、データとかその理屈をこねただけっていうところはもう絶対AIに勝てない未来が待ってるので。今度AIがどんどん正論を言い始めるので、それを現実論として、じゃあ社会にどう実装していくのかっていう、その腕の見せどころというか、その手触り感があるみたいな状況っていうのが、むしろ今後もすごい重要視されてくるだろうなと思います」

この視点は、2024年に出版された著書『番頭イズム “欲しがられる人材”の共通点』でも詳しく論じられている。生成AIの台頭により専門家の仕事が代替されつつある一方、経営者は依然として多忙を極めている。この矛盾を解くカギとして、「番頭的な働き方」 – つまり、特定の専門領域に閉じず、経営者のビジョンを実現するために何でもやるという姿勢が、最も求められるスキルセットだと村井氏は主張する。

5年後、10年後のビジョン – 投資家としての顔

村井氏の5年後、10年後のビジョンは、単なるコンサルタントの枠を超えている。

「アウグスビールの方の事業でいくと僕も株を持ってたりして、事業承継も含めて、どこかで株を売却したりだとか、そういうことも多分今後増えてくると思うんです。そうすると自分の手元のキャッシュも増えていくので、ファンドとまでは言わないですけれども、ただコンサルするっていうだけじゃなくて、自分も投資をして、その投資先を一緒に伸ばしていくみたいな、そういうモデルをどんどん増やしていきたいなと思っています」

コンサルや番頭という形だと、あくまで顧客がお金を払ってくれて、その支出を持って行けるかどうかという判断になる。しかし、自分から先にお金を出せれば、最初チャンスがない人たちや資金的にチャンスがない人たちもチャレンジできる可能性が増える。

「そういうモデルをもうちょっと増やしていきたいなっていうところが、5年、10年のビジョンですね」

メガネスーパー元社長から学んだこと

影響を受けた人物として、村井氏はメガネスーパー時代の社長の名前を挙げた。

「全国300店舗全部の現場にちゃんと行って、しかも1回行ったとかじゃなくて、もう年に3、4回は確実に行っていて、周辺の建物もどこに何があって、どこにどういうポールがあってとかって全部覚えてた社長さんで。例えば、ちょっとしたアドバルーンみたいなのを出そうみたいになった時に、店舗のスタッフは出せないとか言い訳するんですけど、社長が全部記憶してるんで、『あそこのあの電柱のあそこに掛ければ出せるだろう』みたいなことを言うんです」

写真を撮るわけでもなく、毎回現場に行って現場をじっと見ている。その圧倒的な現場解像度が、理屈を言わさぬ力強さを生んでいた。

「あそこまでやりきるっていう姿勢はすごいなって思います」

仕事以外で大切にしていること – 神社参拝の習慣

仕事以外で大切にしていることとして、村井氏は神社参拝を挙げた。

「アウグスビールの方で地方出張とか多かったりするので、全国各地でお参りすることが多いんです。多かった年だと年に70社ぐらい神社参拝してますね。新しい地域でビジネス始めるとか話が始まるってなると、その土地ともなんかご縁というか営業で行くとかも含めて生まれてくるので、その土地土地の神様にもしっかり挨拶しとこうと。昔、引っ越ししたらご近所挨拶みたいなのがあったのと同じような感じで、地域地域の神様にもしっかり挨拶しといた方が、都合行くにも気分いいなみたいなのもあって」

自分の仕事してるエリアで地震とか起きないように、土地の神様も思ってくれてるだろうという感謝の気持ち。そういった神社仏閣参りは、プライベートでも仕事も含めて大事にしているという。

どんな人に利用してほしいか

最後に、村井氏にどんな人に自身のサービスを利用してほしいか尋ねた。

「ご自身が提供してる商品とかサービスに、いい意味でこだわりとか、誰にも譲れない価値観みたいなのを持ってる人がすごいいいなって思います。世の中的にこういうのが流行ってて、とりあえず儲かりそうだからこれやろうみたいな、市場の流行りに合わせてとりあえずやってみるみたいな人は、僕は相性は合わないですね」

いい商品を持っているのに売れないと悩んでいる経営者に向けて、村井氏はこうメッセージを送る。

「それは商品が本当に悪いんじゃなくて、商品を買ってもらうとか知ってもらうためのアプローチがただ見えてないとか、もしくはその形にできる人がただ周りにいないっていうだけなんです。だからこそ、僕みたいな外部の力を活用して、むしろその商品の良さを世の中にちゃんと知っていただきましょう」

村井庸介氏の1日は、朝6時台に起床し、神棚に挨拶することから始まる。8時頃からはもう顧客とのミーティングが入ることが多く、仕事の終わりは5時か6時と比較的早め。夜は取引先との会食や、アウグスビールの仕事であればビール工場の見学案内などを行う。会食がない日は、趣味のブラジリアン柔術の練習に充てている。

10年間で7回の転職、年収40%ダウンの時期、そして独立。村井氏のキャリアは決して順風満帆ではなかった。しかし、その「ずらし」と「失敗」の積み重ねが、今の「社外番頭」という唯一無二のポジションを生み出した。

「正論」ではなく「現実論」を語り、口だけでなく手を動かし、社長と二人三脚で成果を出す。村井庸介という人物は、AI時代において最も求められる「人間にしかできない仕事」を体現している存在なのかもしれない。

経営者の孤独に寄り添い、共に汗をかき、事業を成長させる。そんな「番頭的な働き方」が、これからのビジネスシーンでますます重要になっていくことは間違いないだろう。

村井庸介 プロフィール
株式会社番頭 代表取締役
アウグスビール株式会社 取締役COO
iU情報経営イノベーション専門職大学 客員教授

1985年11月生まれ、京都府出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、野村総合研究所入社。リクルート、グリー、日本IBM、メガネスーパーなどを経て独立。中小企業の組織変革支援、新規事業立ち上げ、DX推進などを手がける。著書に『どんな会社でも結果を出せる! 最強の「仕事の型」』『ずらし転職』『番頭イズム』など。

ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございました。

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